腫瘍センター長 山上亘
近年、がんに罹患する方は増加傾向にあり、本邦では男性の約63%、女性の約51%が生涯のうちにがんを経験するといわれています。年間では38万人もの方ががんで亡くなり、全死因の約4分の1を占めており、がんはわれわれにとって、最も身近な疾患の一つといえます。
これまでのがん診療は、顕微鏡検査でがんの存在や性質を明らかにし、画像検査でがんの進展度の推定をしたうえで、原発巣(がんが最初にできた場所)に応じて治療方針を決定し、手術療法や薬物療法、放射線療法などを各診療科が主体となって実施してきました。近年は、内視鏡手術やロボット支援手術といった低侵襲手術の普及により、身体への負担を減らしつつ最大限の治療効果を目指す治療が開発され普及してきています。また、分子遺伝学的検査の進歩により、臓器を超えて共通する遺伝子異常に基づいた戦略で治療を行うがんゲノム医療もだいぶ広がってきました。
がん診療は診断と治療だけではありません。治療の過程や終了後に失われた機能の回復支援、つらさを和らげる緩和ケア、日常生活や社会生活との両立を支えるリハビリテーションや心理的サポート、就労支援、後方連携なども欠かせません。がんと向き合い、がんと共に生きていく患者さまやそのご家族を、中・長期的に支える体制も求められています。
こうした背景のもと、当院腫瘍センターは診療科の枠を超えて横断的かつ包括的ながん診療を提供することを目的に、2009年4月に設立されました。以来、がん専門外来、外来化学療法部門、放射線部門、緩和医療部門、低侵襲療法開発部門、リハビリテーション部門、がんゲノム医療部門を開設し、最先端のがん診療をさまざまな角度から提供する体制を整えております。当院は2018年度には「がんゲノム医療中核拠点病院」、2019年度には「地域がん診療連携拠点病院」に指定され、日本のがん診療をリードする役割を担ってまいりました。
本センターには、各領域の専門医に加え、専門看護師、薬剤師、理学療法士、医学物理士、歯科・口腔外科医師、歯科衛生士、メディカルソーシャルワーカー、医療事務スタッフなど、多くのスタッフが所属し、患者さまの診療に当たっております。これからもチームの総合力を活かし、地域の医療機関の皆さまとも連携しながら、患者さん一人ひとりに寄り添った全人的医療を実現してまいります。
